海外で働くことを夢見る学生へ

2024年3月21日

はじめに

 大学卒業後にグローバルなビジネスの舞台で活躍したいと思う学生、高校生のみなさんは多いと思います。私は本学着任前に自動車部品メーカーに勤務し、途中5年間アメリカに駐在していました。今回はその経験をもとに海外で働く楽しさ、苦労、学生時代に身につけておくと良いことを述べていきたいと思います。

海外で働く楽しさ

 アメリカ時代はカナダ・メキシコも守備範囲としており、また、駐在前にブラジルにも出張していたので、主に南北アメリカ大陸を飛び回っていました。当たり前ですが、ビジネスなので観光地とは異なる場所を中心に訪れます。経済的に豊かな都市もあれば、貧しい農村もある。日本とは異なる風景を見て、街の雑踏の中で臭いを感じ、現地の人と会話をする。これだけでも色々な発見があって本当に楽しいですよ。どれもスマホからでは得られないものばかりです(写真はメキシコのケレタロという世界遺産の町のお祭りです)。

 たとえば、みなさんはブラジルについてどのようなイメージを持っていますか?サッカーやアマゾン、音楽が好きな人ならばサンバやボサノヴァを思い浮かべるかもしれません。私も現地でサッカーの試合をみて、シュラスコ(ブラジル版バーべーキュー)を食べるなど楽しい思い出がたくさんあります。

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 他方、ブラジルには治安が悪いというイメージもあります。私は現地で車の助手席に乗って移動中、追突事故にあったことがあります。追突されたので通常ならば相手側が全面的に悪いはずですが、運悪く治安が良くないエリアであったため、安全優先で被害者である我々が現場から逃げ去るという経験をしました(大したケガではなかったのですが、日本本社では磯村重傷説が流れていました(苦笑))。

 しかし別の機会に現地スタッフと雑談をしているとブラジルよりも日本のほうが怖いと言われました。驚いてその理由を聞くと、彼曰く「確かにブラジルは強盗が多い。しかしお金さえ出せば、殺されることはない。日本は違う。いきなり街中で無差別殺人が起きるから対処できない(注1)」と。これは私にとって衝撃でした(注2)

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 さらにアメリカ時代の職場はアメリカ人だけではなく、ロシア、インド、メキシコなど多国籍のメンバーで構成されていて、キャリアもそれぞれでした。そのため考えの違いから衝突することもありましたが、一緒にプロジェクトに取り組んできました。良い仲間に恵まれ、私自身が成長できた素晴らしい5年間でした(写真は送別会で食べたケーキです)。

 今でもLee Greenwoodの「God Bless the U.S.A」を聴いては当時を懐かしく思っていますし、当時の仲間が来日した時には、ゲスト講師として私の授業で話をしてくれたこともありました。実は赴任前の研修でアメリカ人講師から「お前の考え方はアメリカ人に近い」と言われたので「自由」を尊ぶ社会はおそらく肌に合っていたのでしょう。私にとっても「自由」はかけがえのない価値であり、この意味でも現在の大学教員という仕事を楽しんでいます(注3)

海外で働くことの苦労

 アメリカ時代に取り組んだ仕事として、アメリカ、カナダ、メキシコの各拠点に分散する業務を北米本社に集約して効率化を図ろうとしたことがありました。それぞれの日本人トップは賛成してくれたのですが、一部の現地マネージャーから猛烈な反対を受けました。会議で面と向かって「Stupid Idea !」と罵られたこともありました。

 実はこの背景には日本とアメリカで大きく異なる企業と従業員の関係があります。たとえば企業がある事業について利益が出ないことを理由に撤退を考える場合、日本では関係する従業員を他事業へ配置転換することで雇用を守ることが一般的ですが、アメリカでは従業員を解雇することが多い。そのため、現地マネージャーにとって私の提案は自身および部下の仕事を取り上げるもの、つまり解雇だと受け止められたわけです。最終的に雇用に影響がないことを丁寧に説明して納得してもらいましたが、国によってビジネススタイルが大きく異なることを実感する出来事でした(注4)

 

 また、San Antonioへ出張した帰りにDallas Fort Worth空港で飛行機を乗り継ごうと搭乗口まで行ったにもかかわらず「機体が小さいものに変更になったからお前の席はない」と一方的に言われたことがありました。はっきりしたことはわかりませんが、おそらくアジア人だから差別されたのでしょう。理不尽な扱いに納得できなかった私は激しく抗議し、一歩も引かない姿勢を見せたところ、渋々、お前の席だと言ってチケットを渡されました(注5)

 私の娘もスクールバスの中で「日本人はパールハーバーでだまし討ちをしたから卑怯」と言われたことがあったようですし、家族でアリゾナ州へ遊びに行った際、立ち寄ったマクドナルドに隣接して写真のようなものを展示する建物がありました。第二次世界大戦で日本と戦ったことを伝えるものです(注6)。差別に対し決然とした姿勢を示すことは大切ですし、同時に歴史を深く知ることも重要だと感じます。

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学生時代に身に着けて欲しいこと

 以上のエピソードを聞いて、少しでも海外で働くことに興味を持った方に向けて「海外で働くために学生時代に身につけておくと良いこと」を紹介したいと思います。本当はたくさんあるのですが、ここでは3点に絞ります。

 

①英語

残念ながら私の英語はJapanese-English(いわゆるJanglish)であり、きれいな発音ではありません。しかし大事なことは逃げずにコミュニケーションを取ることです。話していることが上手く伝わらなくても、それは相手が悪いぐらいの感覚で大丈夫。ロシア、インド、メキシコそれぞれお国訛りの英語があります。Janglishで何が悪い。しかし、私と違って大学でしっかりと英語を習得すれば、みなさんは自信を持ってグローバルなビジネスの舞台で活躍できるはずです(注7)
また、ひょっとすると翻訳機能や人工知能の発展で英語学習の重要性に疑問を持つ人もいるかもしれません。しかしビジネスの現場で翻訳機能を使うような時間的余裕はないことが多いですし、そもそもそんな英語では相手と深い信頼関係は作れません。

 

②教養(リベラルアーツ)

日本、海外を問わず優秀なビジネスパーソンは豊かな教養を身につけています。大学時代に手当たり次第に本を読んで、手当たり次第に映画を見て、手当たり次第に音楽を聴いてください。様々な科目を履修して、多様な背景を持つ教員、友人と一緒に学んでください。学外の友人ともたくさん遊んでください。どんどん海外に出かけてください。アルバイトやスマホだけではもったいない(注8)

 

③主体性

私の好きな言葉にProactiveというものがあります。自ら進んで取り組むことであり、主体性をもって行動することです。反対語はReactiveですね。受け身で誰かの指示や何らかの出来事に反応するイメージです。大学は高校までとは異なり、自由な時間が増え、行動範囲が広がります。また、履修する科目やゼミを自分で選ぶことができます。誰かから言われるのではなく、成長できる環境を自分で選択してください。
また、主体的、かつ前向きに活動する人をリア充(死語?)などと言って、自分とは違う世界の人だとしないでください。自らその世界に飛び込みましょう。大丈夫。緊張するのは最初の一歩だけです。
ちなみにビジネスの現場で主体的に動くことをせずに、言われたことだけをやっている人は評価されません。さらに口先だけで実際に問題に取り組まない人は嫌われます(注9)

さいごに

 色々と偉そうなことを書いてきましたが、みなさんに伝えたいことは、グローバルなビジネスの舞台は楽しく、成長できる場所だということです。私は正真正銘のおじさんですが、まだまだ成長できると信じています。もし縁あって本学科にくることがあれば、グローバルな舞台に向けて一緒に楽しく学び、成長しましょう。あなたを待っています。

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(注1)地下鉄サリン事件や秋葉原通り魔事件、京都アニメーション放火殺人事件を思い起こしてください。

(注2)ここには書けないような経験をたくさんアメリカやメキシコでしてきました。興味がある人は私の講義を履修するかゼミに来てください。

(注3)もちろん「自由」には「責任」が付随しています。ただし責任といってもその中身は「自分の人生に対する責任」と他者への「説明責任」だと私は考えています。 これらはそれほど恐れるものではありません。

(注4)日本と海外の雇用関係の違いについては、私が担当する科目「日本研究B」で取り扱っています。関心がある方は一緒に学びましょう。

(注5) アメリカには黒人、アジア人はもちろんのこと、様々な差別が根強く残っています。しかし同時に、その差別を乗り越えようと社会全体で向き合っており、私はこの姿勢を尊敬しています。

(注6)このエリアはネイティブアメリカンの一部族であるナバホ族の居住地です。彼らは太平洋の島々で激しく日本軍と戦っており、その勇敢さを称える施設でした。また、本学着任後に行ったオーストラリアのブリスベン市内にも日本と戦ったこと解説する展示がありました。みなさんは日本がオーストラリアとも戦ったことを知っていますか?

(注7)私の子供たちはいわゆる帰国子女です。そんな息子の前でTUBEの「さよならイエスタディ」というなつかしい歌を口ずさんだところ発音が悪く伝わりませんでした(苦笑)。彼に言わせれば「イエスタディ」ではなく「jéstɚdèɪ」だそうです。

(注8)私のゼミのモットーの1つは「大学の外で勝負!」です。

(注9)案外多いタイプは他の人が苦労して取り組んだことに対し、小さなミスを得意気に指摘することが格好良いと思っている人です。こうした人は都合よく理由をつけて目の前の問題、仕事から逃げるだけではなく、Proactiveな人の足を引っ張る有害な存在でもあります。みなさんはそうならないでくださいね。目先の面倒を上手く回避したつもりでも、20年後には取り返しのつかない実力差になっていますよ。